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真面目と不真面目を兼ね備えた凡人

子連れの日常には至る所に危険が潜んでいる

子供というのは、時に大人が想像もつかないような突飛な言動に出ることがある。

それは自分に子供が出来てから痛感しているのだが、先日身の引き締まるような出来事があったのでここに記録として残しておきたい。

 

祖父母宅でかくれんぼ中

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隠れてる(つもり)

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ある土曜日の午前11時頃、自転車で5分程の実家に行くのを口実に昼食作りという仕事を完全放棄すべく、私は3歳児の息子を連れてコンビニに来ていた。

 

そして自転車を停めて息子を下ろし店内に入ろうとしたその瞬間、突然息子が言い放った。

 

 

 

 

 

「ママー、見て!ベイマックスがいる!」

 

 

 

 

???

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画像お借りしました

 

 

さて、皆さんはベイマックスをご存知だろうか?

 

ベイマックスを知らない方のためにディズニーを極めに極め抜いた真のディズラーとも言えるこの私がご説明しよう。  

 

ベイマックスとはディズニーの癒し系担当としてプーさんの後を継ぐべく2014年に突如現れた大人から子供まで幅広く愛されるキャラクターである。

その見た目を一言で表すならまさに『シンプルイズベスト』。無駄な装飾を極限まで省いた白くてまるっとした空気人形である。顔の造形は必要最小限にとどめており、二つの(目のような)黒い点と点を繋ぐ(口のような)一本の線は、人と人とを繋ぐ架け橋のような存在になって欲しいとの製作者の願いが込められているとかいないとか。

性格は礼儀正しく誰にでも親切。だが、どんなに親しくなっても絶対に敬語を崩さないというスタンスには強い信念のようなものを感じさせる。身なりも至ってシンプルで、爽やかな白のワントーンに左胸のさりげないワンポイントがおしゃれ♪キュートなフォルムに飽きの来ないデザインで365日使えるおすすめロボットです♡

 

 

 

 

え?ベイマックス?ああ、あれね、一応見たことはあるんですけどね、それこそ息子も一緒に実家で録画してあったやつ見たんですけど、私は私で仕事しながら聞き流してる程度でして、息子は息子で母と遊びながら聞き流してる程度でして、まあ、要は二人ともまともに見たことはないんですよね。それこそストーリーとかほとんど知らない。

なんか母が「これ何度見ても本当に泣ける!」って言うんですけど、泣ける映画だからこそ今は見たくないっていうか、だったら一人で観たいっていうか、そんな感じでとにかくベイマックスっていうのは白くてまるっとした優しいロボットで合ってますよね。

 

え?ディズニー?あー、好きです、すきスキ。好きな作品?うーん、び、美女と野獣かな…?正直言言うと最近のとか全然分からないんで話振らないでもらえますかね。いや、昔のもそんな知らないですけど。なんならジブリ派ですけど。

 

まあベイマックスってのはとにかくこれですわ。

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話を戻そう。

 

「ママー、見て!ベイマックスがいる!」

 

嬉々としてそう言う彼の指差す方向に目を走らせると、そこには白くてまるっとしたシルエットがあった。

 

直線距離で3m程だろうか。こちらに背を向けるようにして立っている彼女(もしくは彼)がなぜ気温29℃の真っ昼間に長袖の厚手のパーカーを着ているのかはわからない。せめて半袖だったら息子がベイマックスだと思うこともなかったであろう。

 

 

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そしてもう一点気になるのはその洋服のサイズ感である。

彼女(もしくは彼)が控えめに言ってもかなりふくよかな体格であることは洋服越しにも伝わるのだが、そのパーカーのサイズが明らかに大きすぎる。丈が長いとかではない。服のサイズが大きいから必然的に丈も膝近くまできてしまい、その結果より一層ベイマックス感が出てしまっている。

 

 

 

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日差しの強い6月のその日、コンビニで出くわした彼女(もしくは彼)は大人である私から見ても間違いなくベイマックスであった。

完全に意識してるとしか思えない丸みを帯びたヘアスタイルは勿論、その白くて大きな背中の圧倒的ベイマックス感に、思わず私の中のヒロが叫び出しそうになる。「会いたかったよ、ベイマックス…!!!」

 

 

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いや、そんな呑気なこと考えている場合ではない。息子はたった今、人様を指さし結構なボリュームで「ベイマックスだ!」と発言してしまったのだ。

この世でベイマックスに例えられて喜ぶ人間が居るだろうか?ベイマックス単体では「かわいい」「癒し系」などのプラスなイメージが浮かぶが、人をベイマックスに例えた途端そのイメージは一転、「デブ」「ずんぐりむっくり」など悪いイメージとして受け取られることは確実だ。

かの有名な女芸人であるハリセンボンの近藤春菜さんでさえ、ベイマックスですか?と聞かれた際には「ベイマックスじゃねえよ!!!!」とかなりご立腹な様子でブチ切れている。仕事で数多の暴言を浴びせられてきたであろう芸人さんですらこのキレようならば、暴言にあまり免疫のない一般人だったらどうなってしまうのだろう。殴られるのは当然、精神的被害を被ったという理由で多額の慰謝料を請求されてもおかしくはない。

 

一瞬で最悪の状況を想定している私をよそに、息子は澄んだ瞳でこちらを見つめていた。

 

「ねえママ、ベイマックスいたでしょ?」とでも言いたげなその瞳は悪意のカケラもなく、ベイマックスというキャラクターを自分が見つけたことを素直に喜んでいる。そして共感してほしいと私に求めている。

そうだよね、あれはどこからどう見てもベイマックスだよね。こんなところにベイマックスがいるなんてママもびっくりしちゃったよ。よく見つけたね、すごいね。

 

こう、素直に答えてあげられたらどんなにいいだろう。しかし私は母親だ。息子を守る義務がある。軽はずみな言動で相手を刺激して更なる悲劇を生むことだけはなんとしても避けたい。

それと同時に、この無邪気な笑顔を、悪意や他意のない澄んだ瞳を、私は守りたい。あれは明らかにベイマックスだ。ベイマックス以外の何者でもない。それなのに「あれはベイマックスじゃないよ、人間だよ」なんて息子に嘘をつきたくない。大人の事情で嘘をつき、それによって息子の無垢な心を傷付けるなんてそんなこと私には出来ない。

 

 

一体どのくらいの時間が経過したのだろう。実際には数秒程度かもしれないが、体感としては2,30分程に感じられた。

 

幸いなことに、彼女(もしくは彼)は自らがベイマックスだということに気付いていないようだった。

「ベイマックス」というパワーワードにピクリとも反応しない器の大きさに更なるベイマック感を抱きつつ、私は彼女(もしくは彼)に気付かれぬよう息子の手を引き逃げるようにしてコンビニの中へと避難した。

そして歩きながら考える。息子にかける言葉として一番適切なものはなんだろう。

 

「ほんとだ!ベイマックスいたね!」

だめだ。これでは万が一彼女(もしくは彼)が店内に入ってきた場合、息子はまた興奮してベイマックスがきた!と発言してしまうだろう。一度は逃げ切れたとしても二度目となると言い訳のしようがない。殴られるか、もしくは精神的被害を被ったとして多額の慰謝料を請求されることだろう。

 

 

「あれはベイマックスじゃないよ、白い服を着た人間だよ」

もしかしたらこれが正解なのかもしれない。子供の夢を壊すことになるが真実を伝えるという選択だ。しかし、わずか3歳の子供にただただ真実を突きつけることが果たして正しい行いだと言えるだろうか?

いや、そもそもあれは紛れもなくベイマックスだ。それを大人の都合で「ベイマックスではない」と嘘を伝えるなんて言語道断である。何が真実だ。嘘っぱちじゃないか。あーあ、これだから大人はいやだ…

 

 

「ちょwwなにあれwwまんまベイマックスじゃんwwww」

ここで素直に爆笑したとしよう。すると息子はどうなるか。そう、調子に乗る。驚くほど調子に乗ってしまう。こちらがちょっとでもウケると壊れたラジオのようにそのネタをエンドレスリピートしてくるのが3歳男児の特性であると言っても過言ではない。

今回の件で言うならば息子は間違いなくベイマックスいたよね!ベイマックス!と繰り返すだろう。そして万が一当の本人が入ってきてしまった暁には「ママ!さっきのベイマックスきたよ!」と先程より更に大きな声で嬉々として知らせてくれるだろう。そうなったらこちらの完全敗北だ。いくらコンビニ内とはいえ、あの白い巨体を血で染め上げたような真っ赤な色をした鎧のフル装備で固めた完全体のベイマックスにひと暴れされたらひとたまりもない。慰謝料どころの話ではなくお店もろとも木っ端微塵である。

 

 

結局、あれこれ悩んだ末に私の出した結論は

 

 

 

 

 

「人のこと指差しちゃだめだよ」。

 

 

 

 

聞け、子供達よ。これが汚い大人というものだ。現実から目を逸らし、論点をすり替え、更には人のせいにする。こうして会話を自分のペースに持ち込み自分本意の展開へと持っていこうとする。これが汚い大人のやり口である。

子供達よ、そして息子よ、こんな大人だけはなるなよ…

嗚呼、私はいつからこんな人間になってしまったんだろう。辛い現実からは目を背け、臭いものには蓋をし、長いものに巻かれてただ生きるような大人にだけはなりたくないと思っていた。それがどうだろう。今の私はあの頃軽蔑した大人と同じではないか?

 

しかし、私はベイマックスのおかげでそのことに気付けた。自分の過ちに気付くことが出来たのだ。

 

これからはもうこんな生き方はしない。自分に正直に、人に優しく、誠実な人間になろう。大丈夫、まだやり直せる。今からでも遅くないはずだ。

 

 

 

 

 

そして私は、やっと心から言える。

 

 

 

 

 

 

「ベイマックス。もう大丈夫だよ」

 

 

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実家到着後、母が録画してたベイマックスを改めて観てみましたが息子が全然興味なさそうなので消しました。3歳児の関心なんてこんなもん。